災害体験の語り継ぎにおいて重要な役割を担うマスメディアのこれまでの活動を振り返り、展望と課題を考える。

コーディネーター

安富 信

読売新聞大阪本社 編集局編集委員

略歴
 読売新聞大阪本社編集局編集委員。阪神・淡路大震災当時(1995年)は、読売新聞大阪本社社会部阪神支局次席でデスクの仕事をしていた。震災10年を迎えた2005年7月から、神戸市の人と防災未来センターへ研究調査員として派遣され、1年間、「災害報道」などを研究テーマに勉強した。2006年7月から現職で減災・防災担当。

関連情報
 

メディアと物語:カトリーナについての真実を探して

ハリケーンカトリーナ、アメリカ:2005

 災害と復興は被災者の語りの中でいずれも生き続けるものであり、このことをよく考察し、記憶しなければならない。しかし、記憶することの必要性と、それと同等に忘れることの必要性のバランスは常に揺れ動く。災害の教訓を考察しなければ、よりひどいことになったかも知れない間違いを繰り返すこととなるのは当然である。しかし、どこかの段階で、ある社会がそれ自身であるということの感覚の核となる語りは、被災の苦労話であることを越えて、より希望に満ちた未来のビジョンを記録していくこととならなければならない。
 ニューオーリンズでの私達の経験、それは神戸や他の被災地の経験に匹敵するものだと私は思っているが、それによれば、災害や復興についての語りは口承によって語られるものだけには限らないということである。それらはいずれも象徴的かつ儀式的にも表現することができる。神戸にあるすばらしいミュージアムや光の祭典は被災から一年を経ずして始まったが、ニューオーリンズでも早いうちからハリケーンの展示が行われ、私達の最大のスポーツアリーナであるスーパードームも再建され、そして、市内の大部分がまだ廃虚のままであったにも関わらずマルディ・グラ祭りも再開された。これに対して、興味深いことに、1965年のハリケーン・ベッツィの時には、ニューオーリンズではこれを記憶するための重要なモニュメントは一つも建てられなかった。おそらく、当時のニューオーリンズは心理的には災害の事実を否定したかったのではないか。しかし、今回、街ではより公にかつよりきちんと悲しみに向き合って処理しようとしているようで、そのことに元気づけられる。ルイジアナ州立ミュージアムのカトリーナの展示もその一つである。あらゆるジャンルのアーティストたちもみな災害に焦点をあてている。普通の市民でさえ、例えば、救助隊が活動中に我が家にペンキでつけた印を保存し、被災の経験を記憶しようとしている。
 このように高まった市民の防災意識が、十分に適切な洪水対策に行かされることを願うばかりである。そのためには、復興が進んでも、被災の生の経験談を語り継いでいくことが求められる。しかし、これまでのところ、ワシントン(にある連邦政府)が引き受けたのは、カトリーナの直撃を跳ね返すには至らなかったと思われる堤防の建設だけである。また、著名なハリケーン専門家であり、決壊した堤防を建設した陸軍に対する率直な批判者であったイボール・ファン・ヘールデン博士がルイジアナ州立大学から解雇されてしまったことも誠に残念でやりきれないことである。博士が陸軍を批判して、連邦から大学への補助金に悪影響がでてはいけないということで氏はその発言を封じられてしまった。このような事例を見ると、個人個人のレベルでの語り継ぎと、これを記録して普及させることの効果が良くわかる。

ジェド・ホーン

ジャーナリスト、文筆家

略歴
 ジェド・ホーン氏は、ハリケーン・カトリーナの時にはニューオーリンズの日刊紙、タイムズ・ピケユーン紙の編集委員だった。ピケユーン紙は、ホーン氏が執筆した記事を含む報道で二度のピュリツァー賞を受賞した。彼の著書、「背信-ハリケーン・カトリーナと、死に瀕した或る大いなるアメリカの市」(ランダムハウス、2006年、ペーパーバック更新版、2008年)は、ニューヨーク・タイムズ日曜版書評で絶賛され、「カトリーナ本の傑作」とラジオで宣言された。ハーバード大学を卒業し、ボストンとニューヨークで長年ジャーナリストとして活動した後、1988年に南部に移り住む。90年代前半には、南米で海外特派員として活動。ヨーロッパとアフリカでも活動。2005年のカトリーナの後ホーン氏は神戸に滞在し、阪神・淡路大震災からの神戸の復興からカトリーナ後のニューオーリンズが学ぶべき教訓に関する一連の記事を書き、全米計画協会から表彰された。ホーン氏は現役を退き、現在、都市計画家であるエドワード・ブレイカリー博士及び日本、オーストラリア、アメリカの専門家とともに、災害復興についての本を執筆中である(2011年に出版予定)。ホーン氏は妻とニューオーリンズに在住し、二人の息子を育てた。

関連情報
直近の著書:ハリケーン・カトリーナと、死に瀕した或る大いなるアメリカの市(ランダムハウス)
"Hurricane Katrina and the Near Death of a Great American City" (Random House)

インド洋大津波の教訓、コミュニティの防災、メディアの役割

インド洋大津波、スリランカ:2004

 Panosスリランカ事務所は、2008年6月、2004年12月のインド洋大津波後に導入された早期警報システムに関するメディアの役割と地域住民の声についての調査を実施した。スリランカではインド洋大津波前には早期警報システムなどは存在していなかったが、現在では津波早期警報のための塔が全国のいたるところに建てられている。本調査は、このように新たに導入されたシステムから出される早期警報に対するコミュニティの反応を把握しようとするものであり、農村における科学技術のインパクトを詳細に見るものである。もう一つの目的は、コミュニティに根差した早期警報システム(草の根レベルで普及しうるもの)に対する地域住民自らのアイデアや意見を聴取し議論することであった。調査は、在スリランカ国連開発計画(UNDP)の資金援助を受け、災害対策関係者との連携の下、地元のジャーナリストが実施した。

発表資料(パワーポイント - 英語)

スヴェンドリーニ・カクチ

ジャーナリスト
Panos Institute スリランカ常駐代表 (2010年3月31日まで)

略歴
 Tokyo Correspondent: Inter Press Service. Writing assignment on Japan and Asia relations. www.ipsnews.net 2007-2010 April. Country representative, Sri Lanka office, Panos South Asia, www.panossouthasia.org Assignment: Developed and Implemented media training on globalization, democracy and community empowerment.. Projects included development of documentaries, seminars, workshops, field reporting, publications, surveys and evaluations Fund-raising. Projects were funded by international funding agencies including the UNDP Sri Lanka, ILO, Canadian International Development Agency, and HIVOS based in the Netherlands. Themes taken up for media development -- child labour natural disasters, Climate Change, local economic development, conflict and displaced population, HIV and AIDS , civil society development, minority rights and mental health. Travel and assignments covered the South Asia region Building of networks between journalists and researchers, government officials and civil society.1993-2007 -- Tokyo correspondent, Inter Press Service-www.ipsnews.net headquarters based in Rome, Italy. Asia Regional office in Bangkok, Thailand. IPS is a wire service covering the issues of the South. Assignment?News features and analysis with a special focus on development issues: regional politics concentrating on Japan-Asia relations, economy, environment, human rights, development economics, gender and society.

関連情報
Panos Institute

パネリスト

 

住田 功一

NHKアナウンサー

磯辺 康子

神戸新聞社

阿久沢 悦子

朝日新聞大阪本社

野田 武

毎日新聞大阪本社

杉村 奈々子

産経新聞大阪本社

魚住 由紀

MBSラジオ「ネットワーク1.17」パーソナリティー

日比野 純一

FMわぃわぃ代表

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2日目:各地からの報告と討論