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しあわせ運べるように
― 歌で語り継ぐ阪神淡路大震災 ―

臼井 真 (神戸市立明親小学校教諭)

 11年前の阪神大震災では自宅が全壊し、奇跡的に命は助かりましたが、自身も被災者であり、 勤務していた小学校は2,000人以上が身を寄せる避難所となっていました。
 そのような状況の中で、地震から2週間後にあるテレビのニュースを見たことがきっかけで、 この歌が生まれました。自分が生まれ育った神戸のまちに対する思いと、 未来を担っていく子どもたちがもしこの歌を歌ってくれたら、 悲惨な状況になったこのまちがもう一度よみがえり、亡くなった方がもう一度命が与えられる。 避難している親類の家で、そんな想像を一瞬の間にし、5分間ほどで作詞・作曲をした曲です。

しあわせ運べるように
(作詞・作曲:臼井 真)

地震にも負けない 強い心をもって
亡くなった方々のぶんも 毎日を大切に生きてゆこう
傷ついた神戸を 元の姿にもどそう
支えあう心と 明日への希望を胸に
響きわたれ ぼくたちの歌 生まれ変わる神戸のまちに
届けたい わたしたちの歌 しあわせ運べるように

地震にも負けない 強い絆をつくり
亡くなった方々のぶんも 毎日を大切に生きてゆこう
傷ついた神戸を 元の姿にもどそう
やさしい春の光のような 未来を夢み
響きわたれ ぼくたちの歌 生まれ変わる神戸のまちに
届けたい わたしたちの歌 しあわせ運べるように
届けたい わたしたちの歌 しあわせ運べるように

mp3ファイル 英語版の歌詞

 この歌を最初に披露したのは、避難所の小学校で、無事だった子供たちから避難されている方への 歌をプレゼントという形でしたが、その際、避難されている方のお一人が目に涙をいっぱいためて、 「先生、この歌は、この世にもしも音楽の神様がいるとしたら、きっと今そばにいて 聞いていてくださいますよ」と言っていただいたことを鮮明に覚えています。 11年たって、この歌がいろんな人の心のバトンタッチで、いろんな国・地域に広がったことは 自分自身、非常に不思議な力が働いたと感じます。
 1年後の神戸の追悼式で港島小学校の子供たちが歌っているのがNHKで放送され、 楽譜やCDはないのかという問い合わせが学校に相次ぎ、日本で広まるきっかけとなりました。
 また、この歌が世界に広がるのに大きな役割を果たしてくださった方が、 阪神大震災で弟を亡くされた森祐理さんというゴスペル歌手です。彼女が、台湾で地震が起こった際に、 向こうの病院で伴奏なしでこの歌を歌われ、「中国語版にはなってないのか」という問い合わせが その病院の中であり、中国語バージョンが生まれました。

しあわせ運べるように・中国語版

 また、イラン・バムの方ともNPOの方を通して交流し、何万キロも離れているバムの子どもたちが テントでピアニカの伴奏でペルシャ語に訳されたこの歌を歌ってくれていたのには 自分自身一番驚きました。

しあわせ運べるように・ペルシャ語版

 私が勤務する学校の子どもたちからも一昨年、お返しに、イラン・バムの子どもたちのために 歌をつくろうということで歌詞を募集し、ナツメヤシのデーツという固い実のように、 もう一度、どこよりも夜空が美しいバムのまちがよみがえりますようにという歌をつくって、 バムに届けていただきました。そのような交流も、子どもたちにとっても貴重な体験になったと思います。

デーツのように 強い心を持とう
すばらしい日々が また訪れる
生き残ったことを 神様に感謝し
亡くなった方々の分も 幸せになろう
日々は流れ 新たな幸せがやってくる
昔から自然からの困難を 何度も乗り越えてきた
悲しい日々、寂しい夜も過ごしてきた
この町をもとに戻そう 美しいバムを永遠に

 中越地震の際にも、自分自身が直接歌を届けたのではなく、群馬県で先生方が被災者の方に 体育館でアカペラでこの歌を歌ってくださり、後に、「楽譜が欲しい」というお問い合わせを いただいたため、「神戸」のところを「小千谷」と「山古志」と地名を替えて歌を届けました。
 その際に思ったのは、やはりバムであろうと、台湾であろうと、新潟であろうと、 どこの国でも自分のふるさとを思う気持ちは一つだということ、 そして、この歌が10年以上も伝えられたのは、子どもたちが歌った歌だったからだということです。 どこの国でも、子どもたちはやはり希望の光であり、しあわせを運べるような存在なのです。 だからこそ、その子たちが、それぞれ災害があった地域で地名を替えて、 悲しい思いをされている方々に対して、「僕たちや私たちが大人になったときには必ずまちを戻す」、 「亡くなられた方々の分、時間を大切にして成長するんだ」という気持ちで、 また「人にやさしさを運べる、しあわせを運べるというのはどういうことなのか」を考えて、 歌い継いでいただければ、この歌も残っていくのだと思っています。

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